はじめに
シンガポールは、世界有数の教育大国として知られています。政府は教育への重点的な投資を行い、TIMSSやPISAなどの国際学力調査でも常に上位を占めてきました。一方で、シンガポールの教育費は非常に高額であり、特に外国人家庭にとっては大きな経済的負担となっています。本記事では、シンガポールの教育費の実態と、家庭が抱える課題について詳しく解説します。
公立学校の教育費
シンガポールの公立学校の教育費は、国籍によって大きく異なります。
シンガポール国民
シンガポール国民の子どもは、公立学校の授業料が無料です。小学校から高校まで、基本的に無償で質の高い教育を受けることができます。ただし、教科書代や制服代などの実費は別途必要となります。
シンガポールの公立学校は、英語を教育言語としながらも、各種のコースやストリームを設けており、能力別に教育を行っています。成績優秀者は大学進学コースに振り分けられ、より高度な教育を受けることができます。一方、技術教育校(ITE)に進む生徒もいますが、そこでも政府の手厚い支援を受けながら、様々な技術を身につけることができます。
永住権保有者
シンガポールの永住権を持つ外国人の場合、公立学校の授業料は月額28,000円程度と、比較的安価に設定されています。ただし、シンガポール国民と比べると、かなり高額です。
永住権を取得することで、子どもの教育費を大幅に抑えることができるため、駐在員の家庭などでは永住権取得を目指す傾向にあります。
純粋外国人
永住権を持たない外国人の場合、公立学校の授業料は非常に高額となります。例えば、日本人の場合は月額93,500円と、日本の私立学校並みの費用がかかります。
こうした高額な授業料は、優秀な外国人材を呼び込むためのインセンティブと考えられています。しかし、一般の駐在員家庭にとっては、大きな経済的負担となっています。
国籍・永住権の有無 | 小学校 | 中学校 | 高校 |
---|---|---|---|
シンガポール国民 | 無料 | 5ドル/月 | 6ドル/月 |
永住権保有者 | 110ドル/月 | 160ドル/月 | 220ドル/月 |
ASEAN国籍の外国人 | 370ドル/月 | 550ドル/月 | 800ドル/月 |
その他の外国人 | 550ドル/月 | 800ドル/月 | 1,150ドル/月 |
私立学校・インターナショナルスクールの教育費
シンガポールには、公立学校以外にも、多くの私立学校やインターナショナルスクールが存在します。これらの学校の教育費は、公立学校に比べてさらに高額となります。
日本人学校
シンガポールには数校の日本人学校がありますが、そこでの教育費は非常に高額です。例えば、小学校で月額約6万円、中学校で月額約7万円となっています。また、早稲田大学のシンガポール校は、年間250万円前後の学費がかかります。
一般的な駐在員家庭では、こうした高額な学費を払うことは難しく、会社からの補助がなければ通わせることができません。日本人学校に通うことができるのは、主に大手企業の駐在員家庭に限られています。
インターナショナルスクール
シンガポールには多くのインターナショナルスクールがあり、そこでの教育費は月額2,500シンガポールドル(約30万円)から5,000シンガポールドル(約60万円)と、さらに高額です。
インターナショナルスクールは、英語による教育を行い、多様な教育プログラムを提供しています。手厚いサポート体制が整っており、英語力が不足している子どもにも丁寧な指導が行われます。卒業後は、米国や英国の大学への進学が一般的です。
しかし、その分学費が高額なため、一般の駐在員家庭では通わせることが難しい状況にあります。主な利用者は、欧米系の大手企業の駐在員家庭となっています。
幼児教育の費用
シンガポールでは、子どもの早期教育が非常に重視されており、幼稚園や習い事に多額の費用を投じる家庭が多くみられます。
幼稚園の費用
シンガポールの幼稚園の授業料は、月額12万円前後と、日本の私立幼稚園の約5倍の高額となっています。中華系シンガポーリアンや駐在員の間では、「少しでも早くから、いい教育を」という考えが一般的で、0歳からリトミックなどに参加させたり、2歳からアルファベットや数字を学ばせたりする家庭が多数あります。
一方で、政府が運営する保育園については、比較的安価な料金設定となっています。しかし、質の高い幼児教育を求める家庭は、高額な私立幼稚園を選ぶ傾向にあります。
習い事の費用
幼児期からスイミングやピアノ、バレエ、ドラマなどの習い事をさせる家庭も多く、月2万円から3万円程度の費用がかかります。この習い事は、英語力の向上やスキル習得のほか、同年代の子どもとの交流の場としても重視されています。
習い事をさせることで、教材費や交際費なども発生します。例えば、教材費は1冊800円前後するものが多く、友達との外食費も1回3,000円程度かかります。こうした経費を加えると、習い事に多額の費用がかかることがわかります。
家庭教師の利用
シンガポールでは、多くの家庭が家庭教師を雇っており、その費用は教育費の大部分を占めています。
家庭教師の利用実態
シンガポールでは、約82%の家庭が家庭教師を利用しているとされています。平均的な家庭教師の料金は、1時間当たり30シンガポールドル(約3,600円)程度で、週に数時間の指導を受けることが一般的です。
家庭教師の利用は、小学校からの習慣となっており、月平均339シンガポールドル(約3.8万円)の家計支出を占めています。この背景には、学歴が社会的地位やキャリアに直結するという考え方があります。
家庭教師利用の理由
シンガポールの教育制度は非常に厳格で、小学校から中学校への進学時に行われるストリーミング制度により、早期に学力に基づいて進路が決まります。このため、親たちは子どもの成績向上に大きな圧力を感じ、家庭教師を雇うことで学力向上を図ろうとしています。
さらに、能力別のコース振り分けにより、一度の試験で大学進学の道が閉ざされてしまうリスクもあります。親たちは、そうした事態を避けるため、家庭教師の指導を受けさせる傾向にあります。
教育格差の問題
一方で、こうした家庭教師の利用は、経済的な理由から利用できない家庭との間で教育格差を生み出す要因ともなっています。政府は教育格差是正のための施策を打ち出していますが、根深い問題となっています。
また、家庭教師の質にもばらつきがあり、指導内容や効果が不十分な場合もあります。一部の家庭教師は、単に受験対策の指導に終始してしまう傾向もあるとされています。
まとめ
シンガポールの教育費は非常に高額で、特に外国人家庭にとっては大きな経済的負担となっています。公立学校でも、外国人の場合は日本の私立学校並みの授業料がかかります。一方、私立学校やインターナショナルスクールでは、月額数十万円から数百万円もの高額な学費が必要となります。
また、多くの家庭が家庭教師を雇っており、その費用は教育費の大部分を占めています。ここには、学歴が社会的地位に直結するという考え方と、厳しい教育制度があります。一方で、家庭教師の利用は教育格差を生み出す要因にもなっています。
シンガポールの教育は質が高い反面、その費用は巨額となっています。家庭の経済状況によっては、教育機会に恵まれない子どもも出てくるでしょう。政府は、教育の質を維持しながら、教育格差の是正にも取り組む必要があります。
よくある質問
シンガポールの公立学校の授業料はいくらですか?
p: シンガポール国民の子どもは公立学校の授業料が無料です。一方、永住権保有者は月額約28,000円、その他の外国人は月額約93,500円と高額です。
シンガポールの私立学校やインターナショナルスクールの費用はどのくらいですか?
p: 私立学校やインターナショナルスクールの費用は非常に高額で、月額数十万円から数百万円もかかります。特に日本人学校の費用は高く、小学校で月額約60,000円、中学校で月額約70,000円となっています。
シンガポールの家庭ではよく家庭教師を利用していますか?
p: はい、シンガポールの家庭の約82%が家庭教師を利用しており、その費用は月平均約38,000円と教育費の大部分を占めています。学歴が社会的地位に直結するという考え方と、厳しい教育制度が背景にあります。
シンガポールの教育費の問題点は何ですか?
p: 高額な教育費が大きな経済的負担となっており、家庭の経済状況によっては教育機会に恵まれない子どもが出てくる可能性があります。また、家庭教師の利用は教育格差を生み出す要因にもなっています。
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